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金色のコルダ3の二次創作小説ブログです
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「扉の向こう」に拍手ありがとうございました。

さて、今日も東土です。
この前上げた「月光華」と昨日上げた「扉の向こう」の続編。
今度は蓬生さん視点のお話です。
ネタを提供してくださったmさん本当にありがとうございます。
そして同時に上手く形にできない自分の力不足がもどかしい……

今日ツイッターで話していたのは、たとえば視覚と聴覚どちらかを失わなければいけないとして、蓬生さんはどちらを失うことを選ぶだろうか。ということでした。
みなさんはどちらを失うことを選ぶと思いますか?
私は、蓬生さんは資格を失うことを望むだろうと思いました。

と、どうでもよい話は置いておきまして。
今回は冒頭にも書いたように蓬生さん視点のお話です。
めずらしいしょた千秋が出てきます。
ちっさい千秋と大きな蓬生さん。初めての組み合わせです。

本編は例の如く「続きから」お願いいたします。
つぎでこのシリーズは多分おしまい。


拍手[4回]




目が覚めると、そこはすべてが白に塗りつぶされた世界だった。


いつも目を開けて聴こえる機械音はない。
無音の世界。


「……ついに、死んだんやろか」


ぼそっと呟いた言葉が、静寂の世界に反響する。


最後の記憶は、見上げた満月の夜の空。
焦った千秋の声と、何かが壊れゆく音。

冬に差し掛かる日に毎年贈られる手袋。
自分にとってその手袋を受け取ることがどういった意味を持つか、千秋は気づいていただろうか。
思い出を一つずつ積み重ねていくことは、自分にとって一つの恐怖の積み重ねだった。
置いて行くものを、遺していくものを増やすことになるのだから。
けれど一年また一年と、千秋と時を重ねることが自分にとっての楽しみの一つにもなっていた。


受け取れたらいい。
そんな小さな願いは叶えられられなかったのか。


どうせ残していくのなら。どうせ置いていくのなら。
諦め続けた人生の中で、唯一自分から手放したくないと望んだ光。
そんな光を掴んでいたいと望むことですら、自分の身体は裏切ってしまうのだろうか。



「――っい!……せい!!!」
「―――ぇ、?」


真っ白な世界。
色を持つ存在は自分だけだった世界に光が、色が射す。



「蓬生!!」



どこからか表れた金色の髪を持つ少年。
最後にみた姿より幾分も幼い姿をしているけれど、見間違えるはずがない。
いつだって当たり前のように傍にいて、けれど傍にいることが何よりも奇跡に思っていた。


「ち、あき……?」


バッと自分の前に躍り出た千秋は今までかけていたのだろう歩みを止めてくるりとこちらに向き直った。


「ん?にぃちゃん俺の名前しっとるん?」


これは、自分が作り出した幻なのだろうか。
自分を見上げる赤い瞳が、記憶している彼のものと綺麗に重なる。


「……よう、知っとうよ」


なんと返すべきか。
少し間を置いて考えて出た言葉はどこか戸惑いの色を含んでしまった。
これはきっと自分の作り出した幻だ。
そう思っているのに、心のどこかで幼い千秋が自分に会いにきてくれたのではないかと錯覚する。


「千秋は、こんなとこで何しとるん?」
「あ、せや。あんな、にぃちゃん俺友達探してんねん」
「友達?」
「うん。眼鏡をかけて、綺麗なすみれ色の髪しとる子やねんけど……あぁ、そう!大きなったらにぃちゃんみたいな美人になりそうな奴やねんけど……」


ひらめいたように自分を指差しながら説明してくれる幼い千秋は、探し人と今目の前にいる自分がまさか同一人物だとは思いもしないのだろう。
けれどそれもまた事実だ。
この幼い人物の探し人は自分であって自分でない。
彼が探しているのは幼い頃の自分。
当たり前であることが普通になっていることを怯えていた、白い鳥篭の中の自分。
千秋という世界しか知らなかったあの日の自分。


「ごめんな。お兄さんも迷子やから、わからんのよ」
「なんや、にぃちゃん。大人やのに迷子なん?なさけないなぁ」


今はもうほとんど聞くことのなくなった関西弁でカラカラと笑われる。
呆れたような。困ったような。
それでいて、どこか楽しそうな。


あぁ、そうだ。
千秋はいつもそうだった。
呆れたようで、でもどこか楽しそうに笑って自分の手を引いてくれる。
力強い掌と、大きな背中。
いつだって追いかけたのは、そんな光だった。


「しゃあないなぁ」


ため息を一つ。
わざとらしさの中に心を躍らせて。
「ん」と、目前に幾分小さくなった掌が差し出される。


「俺が蓬生を探すついでに、にぃちゃんの帰る場所も探したるわ」
「――っっ」


にかっと笑った千秋に、言葉にできない何かが胸からせりあがってくる。
それを吐き出してしまわないように飲み込んで、小さな手を取った。


触れて、初めて気づく。
暖かなその手が、微かに震えていることを。
これは、自分が作り出した幻に過ぎない。
だから、これは自分の想像の世界。
自分が望んだ幼い頃の千秋。
だのに、微かに震えたその手はやけに現実味を帯びていて、自分がいなくなり一人になった時は千秋も不安だったのだろうかと勘違いしてしまいそうになる。


可笑しな話だ。
きっと、自分がそうであってほしいと、自分が不安に思うように千秋にも不安に思ってほしいと望んでいるから"こう"なのだ。
本物の千秋がそうだった確証など、どこにもない。


生まれた僅かな期待を振り払うように小さく頭を横に振る。
くいくいと引かれる腕に従って、歩みを進めた。

 

 

それから、どれほど真っ白な空間の中を歩き続けただろう。
いけどもいけども世界は白に染められたまま。
その中を他愛もない話を繰り返して幼い頃の千秋と手を繋いで進んでいく。


本当に、よくできた幻だ。


小さな千秋は、くるくるとよく回る表情でたくさんのことを自分に話して聞かせてくれた。
それは、幼い頃病室で聞いた話とよく似ている。
どんな曲を弾いた。この曲のここが難しかった。
そんなヴァイオリンの話から、あまり行くことのできなかった学校の話。


そして……――


「そんでなにぃちゃん。蓬生はほんますごいやつなんやで」


あのころの自分は聞くことのなかった、自分自身の話ですら、千秋は楽しそうに語ってくれた。


何でも知っているだとか。
たくさんの本を読んで教えてくれるのだとか。


千秋のほうがよっぽど外のことを知っていただろうに。
けれど千秋は楽しそうに語るのだ。
幼い頃の"蓬生"のことを。


「なぁ、千秋」
「ん?」


今までその小さいながらも頼もしい背中を追いかけて進めていた歩みを止める。
つんっと、立ち止まったことによって伸びた腕が幼い千秋の身体を少しこちらへ引っ張った。


「千秋にとって、蓬生は……どんな存在?」


やめろ。


「蓬生が、おらんくなったら……どないする?」



やめろ。
やめろ。



「蓬生が、足手まといにしかならんかったら?」


やめろ。
やめろ。
それ以上言うな。
いってしまうな。



「蓬生が……」



言葉にするな。
音にするな。
口にするな。


「蓬生が、死んだら……千秋は、」




"どないする?"


最後は、唇を動かしただけで音にすることはできなかった。
ガクンっと足から力が抜けてその場に膝をつく。
繋いだその手を離したかったけれど、自分から離すことはできなくて、俯いた瞳に大きくなった自分の手を握る小さな千秋の掌が見えた。


どうして、こんなことを聞いてしまったのか。
普段の自分ならおおよそ口にすることのなかった問いかけ。
聞いているのは自分が作り出した幻像。
望む言葉しか与えない。
自己満足でしかないというのに。


発した言葉は震えてしまっていた。




「……蓬生」
「――っっ」



声は幼いままなのに、自分の名を発したその声音は酷く大人びていた。
それは今一番良く耳にする彼の音と同じもの。
握っていた掌が離され、支えを失った腕はだらんと重力に逆らわずに落ちていく。


けれど、そんなことを気にしている暇などなかった。




「大丈夫だ」
「ち、あき……?」



小さな腕に、頭を抱かかえるようにして抱きしめられる。
膝をついたままその場に腰を落とせば、さらに力強く掻き抱かれる。



「大丈夫だ。お前はいなくならない。俺の傍から離れることはない」



いつの間にか、幼さの抜けきった声。
けれど、自分を抱きしめる温もりは小さくて、妙に不釣合い。



あぁ、本当に。
なんてできた幻なのだろう。


これが、最期だから。最期だからこんなになにもかも自分が思ったとおりの言葉をくれるのだろうか。
自分が思った通りの世界をくれるのだろうか。



こんなに、確かな感覚を、与えてくれるのだろうか。





「いや、や」

いやだ。
最期になんかしたくない。
今年も受け取れたらいいな。じゃない。
受け取りたいのだ。今年も。
あの手袋を。


終わりなどしたくない。
もう二度と、あの笑顔を見れないなど。
あの太陽のような髪に触れることができないなど。



「死にたく、ない……っ」
「ん」
「千秋に、逢いたい――っ」
「あぁ」



情けないほど声は震えてしまっていた。
こんなところいつもの千秋には見せることができない。
幻だと、自分が創り上げたものだとわかっているからこそ。
そしてなにより、今はもう存在しない幼いころの千秋にだからこそ、吐き出せる想い。








「戻ってこい、蓬生」






一際強く抱きしめられる。
耳元で囁かれた言葉。

肩口がほんの少し濡れた気がした。

 




 

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藍染と書いて「あいぞめ」と読みます。
・ちあほう
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・長八木
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小説は基本「続き」の中に収納しています。

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